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オタク・レビュー

汝、我が民に非ズ-つらい思いを抱きしめて

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芥川賞作家として、そして伝説のバンドINUのボーカリストとして有名な町田康(町田町蔵)の新ユニットです。2014年頃からリハーサルを始め、2017年にワンマンライブ、そして2018年の9月にこのアルバムが発売されました。町田康の音楽作品としては8年ぶりのものになるみたいですね。ギタリストの中村 JIZO 敬治とキーボーディストの大古富士子が作った曲に町田康の著作でも見られるような独特なリズムを持った詩が乗っかるものです。曲はロック、ソウル、R&Bの影響が強い印象ですが、どうもそう言った黒い音楽を白人が演奏したものを真似しているように聴こえます。しかし耳によく馴染む。俺はこういうところから一つのバンドを連想します。それは今世界中でブームになっているクイーンです。

 

ラカン精神分析学者として恐らく日本で一番有名な斎藤環はクイーンについてこう言います。

「クイーンはいわゆる"ロックではないと思います。よくロックファンは『クイーンはビート、グルーブがない』と言いますが、その通りです。(中略)歌詞もほとんどが取ってつけたようで、オペラ座の夜でも偽物のドラマチックさを感じます。でも、このフェイクっぽさこそ、多くの日本人がこれなら聴ける!と飛びついた理由かもしれません」

「日本人はオリジナルを変転させ、ときにそれをパロディするような"フェイク"を愛するDNAを持っていると言えるかも」

(共に大人のロック特別編集 永遠のクイーンに掲載されている斎藤環のインタビューから)

 

思えばクイーンはハードロック、分かりやすいポップ性、クラシックなどあらゆるジャンルを取り入れている、というよりはごちゃ混ぜにしています。これは前述した汝、我が民に非ズの音楽性と共通するところがあります。また、黒い音楽を白人が演奏したものの真似というのもパロディしたフェイクですよね。さらに歌詞ですが、文学的ではあるものの、どこか力の抜けたようです。リズムもロックなのに様々な要素を取り入れ、さらに独特なリズムの歌によってかなりロックらしからぬものになっています。このように、かなりクイーンと通じる部分があり、それがこのバンドの耳当たりの良さ、聴きやすさを演出しているのではないでしょうか。

 

1曲目のだから君は今日も神を見るを再生すると、ジャジーなピアノイントロから町田康の独特な言葉遣いの歌詞が炸裂し、かなり渋い音を出すものの黒さを演じきれてなく白人っぽいサックスが入ってきます。かなり強烈ですね。町田康の歌唱法はINU時代からかなり変わっているように聴こえます。思えば当時20歳にもなっていないが現在は56歳なので当たり前といえば当たり前なんですが、円熟味を増し、声が少し低くなったように感じます。

 

8曲目のいろちがいはおとなしく始まりますが、プログレを彷彿とさせるような不安定な音使いになります。こういう不穏な感じ大好物なんでこれがベストトラックです。これ曲も後ろで暴れるサックスがメル・コリンズっぽいし曲もどこかKing Crimsonっぽいな…….。町田康の声がちょっとgibkiy gibkiy gibkiyのkazumaみたいに聴こえるのは多分歳を取った男に共通する渋さによるものでしょうね。カッコいい。

 

9曲目の白線の内側に下がってお祈りくださいはダーティーなギターリフが懐かしさとともにロックらしさを感じさせます。歌詞は重いように聴こえるけどちょっとコミカルな部分もあります。一番単純にカッコいい曲と言えます。

 

このバンドを聴くといい歳のおっさんが酒を飲んでるイメージが頭に浮かんでくるんですが、ジャズやR&Bなどいわゆるお洒落な音楽の要素を含んでいるにもかかわらず、庶民的な飲み屋っぽい印象を受けます。この辺が町田康の小説そのものっぽいですね。歌詞だけでなく音までそれっぽくなるとはお見事。点数をつけるなら95点です。このごちゃ混ぜの音楽性のまま突き進んでほしいものです。前述した通りクイーンと同様日本人なら馴染みやすいと思うのでぜひ聴いてみてください。ストリーミング配信もあるので。